Saturday, April 28, 2007

[ 大江戸不思議草紙 No.151   2007/04/28]

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆2007.04.28◆◇
    「大江戸不思議草紙(抜書耳嚢)」———VOL.151———    
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   第百五十一夜   
◆>>> うすゆきの話<<<◇
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 「お暇をいただきたい」
 と喜太郎が切り出したとき、主の菓子司大久保主水は眉をひそめたが、結局許した。
 許しを得た喜太郎は、日本橋通一丁目式部小路というところに、夫婦に丁稚ひとりというこぢんまりとした店とも言えぬものを構えた。
 店には看板さえなかったが客足は絶えず、特に喜太郎発案と言う【練羊羹】は、使いの者の多くが重箱を空にしたままで帰らねばならぬほど売れた。
 一方で、弟弟子喜太郎の繁盛を喜びながらも、内心鬱々としていたのが、兄弟子に当たる菓子杜氏の柳助である。

 当時、まだ蒸し菓子だった羊羹を、砂糖と寒天に小豆を使って、蒸さない菓子として考え出したのは、実は柳助だった。
 発想の非凡さでは、大久保の数ある菓子杜氏の中でも柳助に叶う者はいなかったが、ひとつの発想にのめり込んでいく柳助に対して、喜太郎は、発想では劣っていても、やわらかく膨らませていくことができた。
 そうした喜太郎の才能を充分認めていた柳助としては、製造法を盗まれてことを恨んでいるのでもなければ、成功したことを嫉んでいるのでもない。柳助としては未完成の菓子を商品として売り出したということが、気鬱の種だったのである。
 鬱々としながら、仕事の傍ら工夫を凝らしていた柳助だったが、思うようには進まない。
 喜太郎はと言えば、工夫を加えながら新しい練羊羹を作り出していた。店を構えて五年目には、六種類もの羊羹を工夫していたのである。
 それを知った柳助は、大久保を辞めた。

 柳助がこしらえようとしていた菓子、羊羹は「うすゆき」というものだった。
 富士山に残る白雪を映したもので、食べると口の中で薄雪のように融けていく部分と山麓のような羊羹のしっとりとした歯ごたえ。それを求めていたのである。
 柳助が苦心していたのは、口の中で融けていく白雪の部分である。白色と食感を持った素材がなかなか見つからなかったのだ。
 柳助が最初に目を付けたのは、軽羹だった。米の粉と山芋を蒸して作る白い蒸し菓子だが、これはしっとりとした食感は出るが融けるまでにはかない。
 焼き菓子のかすてらの製造法も試みたが、うまくいかない。
 焼き菓子のかすてらから生まれた、かすてら卵も試みてみた。
 白身魚のすり身と卵を出汁で溶きあわせて蒸すか、焼いたものが、かすてら卵である。
 かすてら卵からすり身を抜き、出汁を抜き、卵の白身だけ使ってみる。
 砂糖と砂糖の白身を混ぜて、さらに寒天と合わせる。
 柳助の工夫はここで、行き詰まっていた。
 口当たりが変わり、色が変わり、これで良いというものにはなかなか届かなかったのである。ようやく完成した時、練羊羹を思いついてから十年の月日が流れていた。

 柳助が、菓子を美作屋の「うすゆき」と言う名で売り出すと売れに売れた。
 だが、売り出して四月目の六月に、うすゆきを食べた客が何人も苦しみ抜いて死に、柳助は捕らえられて、美作屋もうすゆきも消えてしまうことになった。
 多分、卵に起因する、今で言う食中毒のようなものだろう。
 後に泡雪羹として世に知られるようになる、五十年ほど前の話である。
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◆今回は、創作です。
 喜太郎は、「北越雪譜」(鈴木牧之)の中で、「練羊羹の起源」として紹介されています。
 その記述から、喜太郎を練羊羹の発案者とする説が一般的でした。
 最近では、和歌山の駿河屋岡本善衛門が、1589年(天正17年)に作ったとされるようになりました。
 寒天が一般的に流通するようになったのが1780年以降なので、1800年前後に評判になった喜太郎の練羊羹がなじみやすかったのかも知れません。

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